年の瀬の石仏
いよいよ今年もあと2日。
臼杵石仏では、観覧券販売所前に南天や蝋梅、松などお正月らしい花材でお飾りを設置し新年のお客様をお迎えする準備をしております。
今朝はひゃくすた年末スペシャルも開催され、年末年始の食材を求めるお客様で賑わっておりました。
何かと忙しい年の瀬ですが、冬の日差しに照らされながら行く参道や公園は、気持ちを落ち着かせてくれるものです。
臼杵石仏は年末年始も営業しております。
元旦には、朝9時から先着200名様に紅白のお餅をお配りします。
帰省の思い出に、またちょっと一息つきに、石仏に会いに来てみませんか?
一石型?積み石型?五輪塔
臼杵石仏の中にはたくさんの五輪塔が見られます。
有名なのは、ホキ石仏第1群の上、中尾地区の台にある「一石五輪塔」。国指定の重要文化財です。
嘉応2年(1170年)、承安2年(1172年)と刻銘のある五輪塔としては、日本で2番目と3番目に古いという価値ある塔です。
因みに一番古いのは、岩手県中尊寺にある五輪塔で仁安4年(1169年)。大差ないところが、惜しいというか改めてすごいな、と関心させられます。
五輪塔は5つ構成部分からなり、下から「地・水・火・風・空」を表しています。密教でいう宇宙を構成する5大要素です。この塔で供養することで、故人が宇宙に還元され、極楽往生できると考えられているわけです。
また、造り方には2つのタイプがあります。一つの石を削った一石型と複数の石を積んで造ったもの。
「一石型」は全体的に筒形で丸みを帯びているのが特徴です。中尾の五輪塔も正にその典型ですね。
対する「積み石型」は、下の部分(地輪)が最も広く、上の石になるほど小さくなります。また、四角・三角・球・半月などの形もはっきりしています。
面白いのは、5つの石ではなく、上の2つ(風輪・空輪)は一つの石になったものがほとんどというところです。4石造り?
五輪塔の歴史は、平安後期に始まります。当初は権力者や寺院などの造立にかかる供養塔としての意味を持つものでした。
時代が下がり、室町時代になると、一般庶民の供養塔としても用いられるようになります。サイズもコンパクトに造り方も簡素化されたのもそのせいでしょう。
ホキ石仏第2群の前に点在する小さな五輪塔は積み石型です。
4石造りも多くみられます。
ところが、右端には一石五輪塔が並ぶエリアがあるのです。
小さくて簡素な造りですが、一石型。しかし権力者や記念塔には見えません。気のおけないかわいらしい塔。
流行り廃りはあっても、造らせた人の個人的趣向もあったことでしょう。また、案外古いものなのかもしれません。大掛かりではなくとも、五輪塔に故人の極楽往生を託した庶民がいた、というのもいい話ですね。
みなさま、どちらがお好みですか?五輪塔を眺めながら、冬の参道を歩いてみませんか?
小雪が散る参道と一味違う山王山
昨日からの冷え込みで、小雪が舞っております。
山王山からの眺めは、色付く木々に透明な冷気のベールがかかったような冬仕立て。
が、振りかえれば穏やかなお顔の釈迦如来さま。強張った背中がゆるゆるとほどけるようです。
さて、山王山は他の石仏群とは異なり、地元の仏師が彫ったと(他の群は京都の仏師による作)います。それだけでも大きな特色なのですが他にも変わった点があるようです。
その一つが、螺髪(大仏パーマ)の謎です。
螺髪は智慧の象徴とも言われる「如来さま」のヘアスタイルですね。
山王山の中尊である釈迦如来様も立派な巻貝パーマをお持ちです。ところが、頭のてっぺんは省略されて真っ平!
発見した時は、衝撃が走ったことでしょう。確かに大きな仏様。通常は頭の上まで見えません。だからといって彫らないという選択は、ないような。
真上には「日吉神社」あります。「神さまが見ています!」。
そう言うと、お応えが反ってきそうです。「私は神でもあるのだよ」と。
というのも、山王山は「本地垂迹(仏は神の化身であるという考え)」という思想の下に彫られた、という説もあるからです。
いずれにしろ、何か急ぐ理由があったのでしょうか?
やっぱり一味違う仏様です。そこがまた魅力でもあります。
みなさま揃って本除去も終了、いよいよ仕上げに~保存作業進捗状況
さて、前回無量寿如来さまだけ焼け具合が遅れ、紫外線照射続行中とお伝えしておりましたが、その後照射が終わりお揃いで、「本除去」作業に入ることができました。
岩のお肌に生えた着生物、根に近い部分の「本除去」は、神経を使う慎重な作業です。今週無事に終了し、本日は最後の行程「撥水作業」に入るそうです。
本年度は向かって右半分の仏様(無量寿如来さま~多聞天さま)までのお肌のお手入れを行っております。
昨年度行った、向かって左半分と比べてみましょう。
左側の阿閦如来さま、宝生如来さまをアップで見ると、お腹の下部分が緑色に見えます。もう、苔などが育っている様子。
お手入れ直後の向かって右半分の仏様、無量寿如来さま、不空成就如来さまは黒っぽく見えます。
これから、苔などの生育を遅らせるために、撥水剤を散布します。最後の仕上げですね。化粧崩れを防ぐ、プレストパウダーといったところでしょうか?
ほっとひと心地ついた6体の仏さま。そんなお気持ちを察したように、今日は上にある日吉神社のお祭り(神事のみ)も執り行われました。きりりと冷たい12月の参道、終わったと思った紅葉が、さらに朱く染まっておりました。
紫外線照射進捗状況、残すは無量寿如来さま
11月に1回目の紫外線照射と除去を行った、今年の紫外線照射・保存作業。その後、2回目の照射を行い、より深い部分の苔など着生生物を枯らしております。
ほとんどの仏様のお肌は、ほどよく焼き上がったのですが、大日如来様のすぐお隣、無量寿如来さまが、もう少しお時間がかかるようです。
みなさま揃って「本除去(岩肌の深い部分に伸びた根の付近を刷毛などで取り払う作業)」へ進みましょうね。
さて、古園石仏を護ってくれている金剛力士立像。こちらは、草取りの為の高い足場が組まれています。
今年はまだ紫外線照射はできませんが、躰に絡まるように生えた蔦や苔、シダは丁寧に取り払われます。
大きな岩に彫られているため、高い位置での作業。作業をされる方の苦労が伺えますね。足下に気を付けて下さいね。
高い位置まで彫られた大きな躰を見上げると、立派な覆い屋の中に納まった仏様とは異なる自然に調和した風格をあらためて感じさせられます。
それぞれの持ち味を生かした保存方法で、22世紀にも臼杵石仏が変わらずに在り続けることを願っています。