笑う十王様と冷静なお地蔵様
地獄の裁判を表現しているとされる「地蔵十王像」(ホキ石仏第1群第4龕)。鎌倉時代に制作され、石仏群の中でも最も新しいものと推定されています。
鎌倉期、争いの絶えない世の中で武士たちは「無常観」・「罪悪感」を意識するようになります。仏の教えに背いた者は地獄に落ちる、という不安の中で最後に救ってくれるのは人間の姿に似たお地蔵様であると地蔵信仰が広がります。仏教に対する考え方も「仏を信じ経をとなえれば極楽浄土へ往生する」という浄土系から「自ら座禅を組み精神を鍛えることで往生する」という禅宗へと移っていきます。ストイックな武士の気風にも合っていたのでしょうね。
さて、地獄の裁判は、厳しい裁判官である十王像と優しい救い主の地蔵菩薩で構成されています。
しかし、ある時お客様から「笑ってるのですね、十王様」というコメントをいただきました。
よく見ると、右・左側共に笑顔にも見える十王様がいます。
反対に優しいはずの仏様は、いたって冷静な表情をたたえています。
仏教がインドから中国へ伝わる中で、地獄でも現世でも人々を救うお地蔵様は地獄の王「閻魔大王」と同一視されるようにもなりました。地獄では厳しい顔をしていたのかもしれませんね。
「救う」と「裁く」は、一見すると反対の意味を表すようですが、「裁き」には「無罪」の判断も含まれます。とすると、裁判官も笑顔で「よかったね、無罪!」と判決を出すこともあったのでしょうか?